日語閱讀:はだかの王さま(二)
そうして城に帰った役人は王さまに向かってこう言いました。
「たいへんけっこうなものでした。」
街はそのめずらしい布のうわさでもちきりでした。うわさがどんどんもり上がっていくうちに、王さまも自
分で見てみたくなってきました。日に日にその思いは強くなるのですが、いっこうに布は完成(かんせ
い)しませんでした。王さまはいてもたってもいられなくなって、たくさんの役人をつれて、二人のずる
がしこいさぎ師の仕事場に向かいました。つれていった役人の中には、前に布を見に行った二人もふく
まれていました。
さぎ師の仕事場につくと、二人はいっしょうけんめいに働いているふりをしていました。糸を一本も使わ
ないで、まじめに仕事をしているふりをしていました。
「さぁどうです、王さまにぴったりな、たいそうりっぱな布でしょう?」
前に來たことのある二人の役人がみんなに向かって言いました。
「王さま、王さまならこの布の色合い、柄(がら)をお気にめしますでしょう?」
そして、二人はからのはた織り機をゆびさしました。二人は他のみんなには布が見えると思っていた
からです。
でも……
「なんだこれは? 何もないじゃないか。」と、王さまは思いました。
王さまは自分がバカかもしれないと思うと、だんだんこわくなってきました。また、王さまにふさわしく
ないかと考えると、おそろしくもなってきました。王さまのいちばんおそれていたことでした。王さまが王さ
までなくなるなんて、たえられなかったのです。
だから、王さまはさぎ師たちを見て言いました。
「まさしくそうであるな。この布がすばらしいのは、わたしもみとめるところであるぞ。」王さまはまんぞ
くそうにうなずいて、からっぽのはた織り機に目を向けました。何も見えないということを知られたくなかっ
たので、からっぽでも、布があるかのように王さまは見つめました。同じように、王さまがつれてきた役
人たちも見つめました。王さまが見ているよりももっと見ようとしました。でもやっぱり、何も見えてはい
ませんでした。
「これは美しい、美しい。」
役人たちは口々に言いました。
「王さま、この布で作ったりっぱな服を、ちかぢか行われる行進パレードのときにおめしになってはどう
でしょう。」
と、誰かが王さまに言いました。そのあと、みんなが「これは王さまにふさわしい美しさだ!」とほめ
るものですから、王さまも役人たちもうれしくなって、大さんせいでした。そして王さまは、二人のさぎ師
を「王國とくべつはた織り士」と呼ばせることにしました。
パレードの行われる前日の晩のこと、さぎ師たちは働いているように見せかけようと、十六本ものロウ
ソクをともしていました。人々は家の外からそのようすを見て、王さまの新しい服を仕上げるのにいそが
しいんだ、と思わずにはいられませんでした。さぎ師はまず布をはた織り機からはずすふりをしました。
そしてハサミで切るまねをして、糸のない針(はり)でぬい、服を完成(かんせい)させました。
「たった今、王さまの新しい服ができあがったぞ!」
王さまと大臣全員が大広間に集まりました。さぎ師はあたかも手の中に服があるように、両手を挙げ
てひとつひとつ見せびらかせました。
「まずズボンです!」
「そして上著に!」
「最後にマントです!」
さぎ師は言葉をまくしたてました。
「これらの服はクモの巣と同じくらいかるくできあがっております。何も身につけていないように感じる方
もおられるでしょうが、それがこの服がとくべつで、かちがあるといういわれなのです。」
「まさしくその通りだ!」大臣はみんな聲をそろえました。でもみんな何も見えませんでした。もともとそ
こには何もないんですから。
「どうか王さま、ただいまおめしになっている服をおぬぎになって下さいませんか?」
さぎ師は言いました。
「よろしければ、大きなかがみの前で王さまのお著がえをお手伝いしたいのです。」
王さまはさっそく服をぬぎました。二人のさぎ師はあれやこれやと新しい服を著つけるふりをしました。
著つけおわると、王さまはあちこちからかがみにうつる自分を見ました。
「何と美しい! ……よくおにあいです!」
その場にいただれもがそう言いました。
「この世のものとは思えなく美しい柄(がら)、言いあらわしようのない色合い、すばらしい、りっぱな
服だ!」と、みんなほめたたえるのでした。
そのとき、パレードの進行役がやって來て、王さまに言いました。「行進パレードに使うてんがい
(王さませんようの大きな日がさ)が準備(じゅんび)できました。かつぐ者たちも外でいまやいまやと
待っております。」
「うむ、わたしもしたくは終わったぞ。」と、王さまは進行役に答えました。「どうだ、この服はわたし
ににあってるかね?」
王さまはかがみの前でくるっと回ってみせました。なぜなら王さまは自分の服に見とれているふりをし
なければならなかったのですから。
お付きのめしつかいはありもしない服のすそを持たなければなりませんでした。地面に両手をのばし
て、何かをかかえているようなふりをしました。やはりめしつかいも何も見えていないことを知られたくな
かったので、すそを持ち上げているようなまねをしているのでした。
王さまはきらびやかなてんがいの下、どうどうと行進していました。人々は通りやまどから王さまを見
ていて、みんなこんなふうにさけんでいました。「ひゃぁ、新しい王さまの服はなんてめずらしいんでし
ょう! それにあの長いすそと言ったら! 本當によくおにあいだこと!」
だれも自分が見えないと言うことを気づかれないようにしていました。自分は今の仕事にふさわしくない
だとか、バカだとかいうことを知られたくなかったのです。ですから、今までこれほどひょうばんのいい
服はありませんでした。
「でも、王さま、はだかだよ。」
とつぜん、小さな子どもが王さまに向かって言いました。
「王さま、はだかだよ。」
「……なんてこった! ちょっと聞いておくれ、むじゃきな子どもの言うことなんだ。」
橫にいたそのこの父親が、子どもの言うことを聞いてさけびました。そして人づたいに子どもの言った
言葉がどんどん、ひそひそとつたわっていきました。
「王さまははだかだぞ!」
ついに一人殘らず、こうさけぶようになってしまいました。王さまは大弱りでした。王さまだってみんな
の言うことが正しいと思ったからです。でも、「いまさら行進パレードをやめるわけにはいかない。」と
思ったので、そのまま、今まで以上にもったいぶって歩きました。めしつかいはしかたなく、ありもしな
いすそを持ちつづけて王さまのあとを歩いていきましたとさ。
[1][2]
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